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本に夢中になっていたのだ。 電車が止まったところで我に帰り、窓の外を見る。妙にひらけた郊外都市型の駅前風景。はて、どこだこりゃ、とホームを見回す。 「朝霞」 しまった。ふた駅ほど乗り過ごしてしまったようだ。慌てて、しかしさり気なく電車を降り、ホームに立つ。反対側のホームはもう電気が消されている。昇り電車は全て終了しました、と書かれたカードがチェーンにぶら下がり、昇り電車で引き返す案を打ち砕く。時刻は深夜12時30分を回っている。まあ仕方がない。 改札を出て、タクシー乗り場や深夜バスの停留所を眺める。 いや、歩いて帰ろう。 全然へこんでないしぃ。夜の散歩が好きだしぃ。むしろ歩きたかったくらいだしぃ。 朝霞駅前に設置された周辺地図を見る。線路に沿って大きな道路が走っていれば迷うことはないが、なかなかそうはいかない。次駅の和光市駅までの道順を頭に入れて歩き出す。 散歩のおともはリトル・フィート。僕はいつだって70年代アメリカンロック、ドゥービー・ブラザーズ、イーグルス、スティーリー・ダン、リトル・フィート、レーナード・スキナードあたりをこよなく愛しているが、さすがにのべつ聴いているわけではなく、自分の中で周期的にブームが回る。この数週間はリトル・フィート・ブーム。リトル・フィートのライブ盤「ウェイティング・フォー・コロンブス」を聴きながら、埼玉県朝霞市から東京都練馬区まで帰るのだ。 リトル・フィートはいい。このバンドにはユーモアがある。そしてロマンがある。カッチョイイなあ、と思いながらどんどん歩く。地図で見たほど大きな道路ではなく、車もあまり通らない。畑が広がっていたり、お寺があったりで街灯も少なく、少々心細い。右に見えていた東武東上線の線路からも少しずつ離れていく。リトル・フィートがなかったら泣いていたかも知れない。 忽然とファミレスの灯りが見えた。ファミレスがあるということは繁華街が近いのか、それともうんと郊外にきたからか。久しぶりに道路標識を見つける。矢印は和光市へ真っ直ぐ伸びていた。よかった。おれ、間違ってなかった。 ほどなくして和光市駅に到着。ここまで来たらもう成増はすぐそこだ。 大まかな方向を見定めて歩き出す。和光市というのは東京より少し高台になっていて、道はゆるく下っている。 リトル・フィートのライブも中盤から後半にかけて盛り上がっている。ホーンが凄い。このホーンはタワー・オブ・パワーだったか。部屋に戻ったら確認しよう。 とうとう白子川が見えた。小さな川だ。しかしこの川の向こうは東京都なのだ。アメリカとメキシコでいうところのリオ・グランデ河にあたる。アクロス・ザ・ボーダーライン。 しかし埼玉・東京間なので特に検問もなく、あっさりと通過。 全然歩けるってわかってたしぃ。いい汗かいたっていうか、むしろ歩きたかったくらいだしぃ。 電車で本に夢中になり過ぎないように、ということかも知れないけど、別にまた歩いたっていいしぃ。 いつものコンビニに立ち寄ってから自宅に帰り、テレビで女子ソフトボールの試合を見た。 |
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